亀腹 

ニューヨークとパリと千駄ヶ谷の緑

東京体育館にあるプールへ行ったら600円に値上げしていた。
30分そこそこ泳いで帰るだけなのだが、それで普段の昼食と同じくらいってのは痛い。
距離の割には安くない電車賃なんかを加えると映画が見れちゃう。


だからといって近場のプールに乗り換えようと思わなかったのは、普通のプールにはない気持ちよさが味わえるからだ。
一番の魅力は、なんといっても50メートルプールがあってしかも塩素がかなり薄いこと。
そしてもう一つは、槇デザインのピュアなボリュームの中を浮かぶように楽しめる。
しかも、水の中なので一人が占有できるボリュームが圧倒的に大きいし自由。
少し前まではコースロープもなく、底に引いてあるラインに対応した進行方向のルールだけで運営されていてたけど、これは廃止され現在はコースロープが張られている。


内部のちょっとした部分もシンプルですがすがしいものになっていて、例えば採暖室の前にあるシャワーはステンレスのパイプとシャワーヘッドとハンドルだけがポンと取り付けられていて気持ちいい。床もタイル貼りでなくモルタル仕上で質素に仕上げながら床暖房になっていて快適。


50メートルプールの大空間は、短辺方向が亀腹のように内側へふくらんだコンクリートの壁にガラス窓を介して自然光の入る屋根がかかっている。そのガラスからは遠くの空が天井に反射しながら見えるので、巨大な亀腹の向こうにボリュームが続いているように感じられ、時々外にいるような不思議な感覚になる。それをさらに補強しているのが地下にある25メートルプールで、亀原をくり抜いてつくったようにガラス越しに見える。


亀腹は外から見ると堤防(あるいは巨大な波)のように切断されていて、中にいるときに感じたボリュームが実はボリュームじゃなかったことがわかってしまうんだけど、本当にそれがボリュームだときっとしつこくなりそうだ。亀腹が外から見るとスパット切れて終わっているのも隣にある体育館のズゴックの目のような端部にあわせたデザインになっていて納得。


外の広場にはガラスのピラミッドが飛び出していて、ちょうどそのあたりから見える代々木のドコモビルがエンパイヤステートビルならこっちはルーブルだと思った。夕暮れの千駄ヶ谷でニューヨークとパリが同時に眺められるなんて結構贅沢だなとうれしくなって後ろを見れば、千駄ヶ谷インテスというオフィスビルが建っていて、反対側を走る首都高とJRの高架やその向こうの御苑の緑と一体となり、駅前の角地に建つ津田ホールのアールのついた壁面と三角窓も加わる。どちらかというとこの辺りだけ周囲より緯度が高い感じで、東京の中でも数少ないデザインされた伸びやかな景観が広がる。高緯度な景観。


吉備津神社の亀腹(基礎のこんもりした漆喰部分)
http://www.geocities.co.jp/Technopolis-Mars/7674/kibitsu.html